峠三吉 生誕100年 平和祈念特別公演に向けて
かつての戦争は物語の中の出来事ではないはずだ。
しかし、わたしたちは戦争を知らない。
当時を知る人が次々に亡くなり、体験談を聞く機会も失われる一方である。
祖父母や周囲の高齢者から体験談を聞けた世代は、今の30代40代が最後になるのではないか。
政治的な世相よりも「わたしたち世代が語り継がねば『戦後』が終わってしまうかもしれない」という使命感のようなものに突き動かされた。
わたしたちは戦争を知らない。しかし、想像力がある。
朗読劇に特化した「言葉の楽譜」なる脚本を書き、鮮明な情景を聴き手に見せる演出で、わたしは朗読劇を作り続けている。
そして、この手法を後世に伝えていきたいという強い思いがある。
ある時、気がついた。
役者の想像力と繊細な表現力を引き出す手法は、戦争を語り継ぎ、追体験させることに役に立つのではないかと。
ふたつの点が、ひとつの線となった瞬間である。
本企画は「若い世代に語り継ぐ」という目的も含めて、ワークショップを通じ20代を中心に語り手を募ることにした。
しかし、依り代となる若者の語りだけでは不十分である。
恐怖に怯え、痛みに苦しみ、肉親との永遠の別離に泣いた彼らの思いに寄り添いたい。
そのためには、彼らの思いを癒し包み込むことができる、祈りの音を持つ音楽家の力が必要であると考えた。
平和運動をしたいのではない。政治的思想を押しつけたいのではない。
ただ「戦争を知ろう」「伝えよう」と思う。そこから先は各々が考えることだ。
こころは自由である。
この思いを、経王寺ご住職がご理解くださり、協力いただけることとなった。
2017年。峠三吉が生まれて100年目の年に。
誕生日前日の2月18日と、広島原爆忌の8月6日に。
三吉が詩集に綴った思いを、想像力をもって表現し、想像力によって体感するひとときを、
より多くの方々と共有できることを願っている。
2016年5月25日
idenshi195主宰 高橋郁子
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